みなさん、「カーボローディング」という言葉を聞いたことがありますか?
マラソンやロードレースなど、長距離スポーツをしている人なら、レース前などに試したことがある人もいるかもしれません。
しかし、カーボローディングの安易な実践は逆にパフォーマンスを低下させ、健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。
今回は、カーボローディングの隠れた落とし穴、より健康的で効果的なエネルギーについて解説します。
カーボローディングとは
カーボローディングとは、試合の数日前から意図的に炭水化物の摂取割合を増やす食事法のことを言います。
なぜこのようなことをするのでしょうか?
私たちの体は、運動のエネルギー源として主にグリコーゲンを使います。
このグリコーゲンは、筋肉や肝臓に貯蔵されていますが、貯蔵量には限りがあります。
長時間にわたる激しい運動では、このグリコーゲンが枯渇し、
「スタミナ切れ」や「ハンガーノック」と呼ばれる状態に陥ってしまいます。
カーボローディングは、このグリコーゲンを通常よりも多く体内に蓄えておくことで、
スタミナ切れを防ぎ、終盤まで高いパフォーマンスを維持することを目的としています。
※グリコーゲンとは食事で摂取した糖を保存しやすいように変化させたものです。
体内のグリコーゲンはどれくらいあるのか
私たちの体内にはどの程度のグリコーゲンが貯蔵されているのでしょうか。
一般的な貯蔵量と各役割は以下のようになります。
肝臓グリコーゲン
貯蔵量:約100g
主な役割:血糖値を一定に保ち、脳などの全身の臓器にエネルギーを供給する。
筋肉グリコーゲン
貯蔵量:約250g〜400g
主な役割:筋肉が直接使うエネルギー源。血糖値の維持には使われない。
これらの合計として、およそ350g〜500gのグリコーゲンが貯蔵されていると考えられます。(筋肉量などにより個人差はあります。)
グリコーゲンは1gあたり約4kcalなので、これをエネルギー換算すると、
総エネルギー量は約1400〜2000kcal程度になります。
長時間運動に必要なエネルギーを考えると、この量は決して多くありません。
例えば、マラソンでは1時間あたり約600〜1000kcalを消費すると言われていますので、
この貯蔵量では2〜3時間程度で枯渇してしまうことになります。
カーボローディングを行うと、筋肉グリコーゲンの貯蔵量を通常の1.5倍〜2倍程度まで増やすことができると言われています。
ただ、その方法には落とし穴があるのです。
カーボローディングの落とし穴
カーボローディングの目的は、試合やレース前などに筋肉と肝臓のグリコーゲン貯蔵量を最大化することです。
そのためにはレースの数日前から大量の炭水化物を摂取しなければいけません。
この過程で私たちの体には大きな負担がかかります。
①血糖値の乱高下
レースの数日前から炭水化物の摂取割合を増やしていくので、血糖値は大きく変動します。
血糖値の大きな変動は血管をはじめ、体にダメージを与えます。
大量の炭水化物を摂ると、インスリンが過剰に分泌されて、血糖値スパイク(血糖値の急上昇・急降下)が起こります。
その結果、反応性低血糖(急激な血糖値の低下)を引き起こすリスクがあります。
これにより、低血糖による倦怠感や集中力の低下など、パフォーマンス低下に陥る可能性があるのです。
②内臓への負担
短期間に大量の炭水化物を摂取することは、胃腸に大きな負担をかけます。
消化不良や腹部膨満感を引き起こし、せっかくのパフォーマンスを妨げる原因になりかねません。
③体重の増加やむくみ(浮腫)
グリコーゲンは水分と結びついて貯蔵されます。
そのため、カーボローディングをすると一時的に体重が増加します。
体が重くなることで、パフォーマンスに悪影響が出る可能性も否定できません。
また、水分も細胞内に取り込まれるため、体がむくむこともあります。
このようにカーボローディングは「エネルギーを最大限貯蔵する」というメリットの裏で、体には結構な負担を強いています。
特に糖尿病の方やその予備軍、脂質異常症などの方が、カーボローディングを安易に行うのは危険です。
脂質代謝の活用という新たな選択肢
グリコーゲンはエネルギーに換算して約1400〜2000kcal程度しか貯蔵できません。
一方で「脂質」をエネルギーとして、効率的に使う考えが注目されています。
それには脂質のエネルギー量が関係しています。
一般的に体脂肪1kgあたり約7200kcalのエネルギーがあるとされています。
(純粋な脂肪1gが9kcalで、体脂肪の約80%が脂肪であるため)
これを体重60kg、体脂肪率20%の場合の体脂肪量で計算すると…
体脂肪量=60kg × 0.20= 12kg
体脂肪からの総カロリー = 12kg × 7200kcal/kg = 86400kcal
2000kcal程度しかないグリコーゲンに比べると桁違いのエネルギー量です。
また、莫大なエネルギー量の他に、脂質代謝を高めることで、以下のメリットが得られます。
①スタミナの持続
脂質は使いきれない程のエネルギー量であるため、グリコーゲンを温存しながら運動を続けることができ、終盤まで粘り強いパフォーマンスが可能になります。
②血糖値の安定
脂質をメインに使うことで、血糖値の急激な変動を抑えられ、パフォーマンスの低下リスクを軽減できます。
③健康面でのメリット
脂質代謝がスムーズになることで、体脂肪が燃焼しやすい体質になり、健康維持にも繋がります。
このようにカーボローディングに比べて、体への負担が少ないうえに、使用できるエネルギー量は比べ物になりません。
脂質を上手く使えるようになるには、過去のブログでも解説している糖質制限での生活を継続していく必要があります。
カーボローディングは本当に必要か?
カーボローディングは、特定の状況下では有効な戦略ですが、血糖値の変動リスクや内臓への負担を考えると、安易に手を出すべきではないと僕は考えています。
むしろ、日頃から糖質を抑えた食事とトレーニングを通じて「脂質代謝」を高める方が、健康面でもパフォーマンス面でもメリットが大きいと言えるでしょう。
レースでの安定したパフォーマンスを求めるなら、一度「脂質」も利用したエネルギー戦略を考えてみてはいかがでしょうか。